宇宙論的終末と情報継承に関する仮説:足穂・シャルダン・ポストヒューマン
本ドキュメントは、稲垣足穂の宇宙観を出発点とし、テイヤール・ド・シャルダンの進化論、現代宇宙論、およびSF的思考実験を統合した文明の生存戦略についての考察をまとめたもの。
1. 起点:物質と精神の等価交換
稲垣足穂は、熱力学的な「エントロピー増大(宇宙の死)」を悲観的な虚無としてではなく、物質という拘束衣を脱ぎ捨て精神的な領域へ移行するプロセスとして肯定的に捉えた。
- 物質の精神化: 物理的な拡散(熱死)は、物質が「触れ得ざるもの(波動・エネルギー)」へと純化される過程である。
- シャルダンとの共振: テイヤール・ド・シャルダンが提唱した、宇宙が物質圏から精神圏(Noosphere)を経て「オメガ点」へ統合されるというビジョンと、足穂の直観はベクトルを同じくする。
2. タイムリミットのシンクロニシティ
宗教的予言と天文学的予測の間に見られる奇妙な一致は、人類の運命を暗示している。
- 約56億7千万年後: 弥勒菩薩(Maitreya)が衆生を救済するために下生するとされる時期。
- 約50億年後: 太陽が寿命を迎え、赤色巨星化して地球を飲み込む時期。
- 解釈: 太陽(火と光)に焼かれ、有機的な個体が消滅してエネルギーへと還元される現象こそが、神話的な「救済」の物理的実体である。
3. 生存戦略:太陽系からの脱出とポストヒューマン化
「太陽系というゆりかご」の寿命(50億年)を超え、さらに遠い未来に訪れる「宇宙全体の熱的死(年以降)」に対峙するため、文明は形態を変化させる必要がある。
- 肉体からの離脱: 恒星間航行と長大なタイムスケールに耐えるため、人類は脆弱な有機的肉体を捨て、意識を機械や光(情報パターン)へとアップロードする(ポストヒューマン化)。
- 「足穂的」進化: これは技術的な生存戦略であるが、結果として足穂が予見した「物質から情報・波動への変容」を実現することになる。
4. 宇宙論的自然淘汰レース
宇宙の寿命を超えて存続しようとする試みは、他の知的生命体との競合を招くというシナリオを考える。
- 目的: 自らの文明の情報(DNA、価値観、論理)を、特異点(ビッグバンやブラックホール)を超えて「次の宇宙(ベビーユニバース)」へ継承させること。
- 競合: 複数の文明が、次世代宇宙の「物理定数(基本法則)」として自らの「OS」をインストールしようと競い合う。これは「宇宙論的自然淘汰」の様相を呈する。
- ブラックホールの役割: 情報を極限まで圧縮し、次宇宙へと送り込むための「箱舟(アーク)」、あるいは「種子」として機能する可能性がある。
5. 結論:神の夢の継承者
このプロセスを経て、文明は神話的な円環構造へと回帰する。
- 「宇宙は神の夢である」: 足穂が引いたこの言葉は、新たな意味を帯びる。
- 創造主への昇格: もし人類が次宇宙の創成に成功し、情報を埋め込むことができたなら、人類自身が次宇宙の住人にとっての「夢を見る神(創造主)」となる。
- 弥勒の正体: 56億7千万年後に現れる救世主とは、外部から来る他者ではなく、進化の極北において宇宙創造の資格を得た「未来の人類自身(あるいはその集合知)」の姿かもしれない。